京都地方裁判所 昭和43年(わ)1353号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕弁護人は、最後に、集団示威行進が許可されるに際し公安委員会によつて「ジグザグ行進する等一般の交通秩序を乱すような行為をしないこと」という条件がつけられた場合、右条件に違反する集団示威行進が行なわれたとしてもその指揮者らが本条例によつて処罰されるには、単に外形的に右条件に違反した集団示威行進を誘導したという事実のみをもつては足りず同行進が右条件に違反することによつて公衆の生命、身体、自由又は財産にとつて具体的に危険が発生した場合であることを要すると解するにしても、集団示威行進によつて著しい交通阻害の状況の惹起をもつて直ちに公共の安全に対する具体的危険が発生したと考えるべきでなく、それは、右交通阻害が原因して集団示威行進参加者とその他の一般車輛、一般通行人との間に険悪な状況を来たし、あるいは右両者が直接物理的に衝突した場合に限定すべきであつて、道路交通法違反の犯罪構成要件と本条例違反のそれとは単に交通阻害の量によつてでなく質によつて区別されるべきであると解する、本件において、被告人の誘導する梯団は信号に従つて交差点に入り、交差点にいたのは二分足らずであり、しかもさして激しいジグザグ行進をしたのでなく、その間一部の車両が交差点を通過したがこれに衝突して停止せしめた事実はないし、しかも本件集団示威行進による車両停滞も僅か一分半ないし二分間で回復したのであるから、同行進によつて著しい交通阻害が発生したものでないから、被告人が右のようなジグザグ行進を誘導したからといつて、本条例によつて処罰さるべき違法性を有しない、と主張する。よつて以下判断する。すなわち、本条例は、集団行動が「公衆の生命、身体、自由又は財産に対して直接の危険を及ぼすことなく行われるようにすることを目的とする」(一条)のであつて、その目的は、道路交通法における「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図る」(一条)のと異なる。すなわち、道路交通法においては、保護法益は道路交通秩序であつて、規制、処罰の対象は、それに対する抽象的危険であるのに対し、本条例においては、保護法益は「公衆の生命、身体、自由又は財産」であつて、規制、処罰の対象はそれらに対する「直接の危険を及ぼす」行為であると解すべきである。そうだとすると、本件集団示威行進について判示のような京都府公安委員会がつけた「ジグザグ行進をするなど一般の交通秩序を乱すような行為をしないこと」という条件に違反した理由で本条例九条二項によつて処罰される者が指導等をしたジグザグ行進は、これによつて一般車両、一般歩行者が者通行を阻害される台数、人数と時間等その他の態様により、それらに対し暴行、脅迫、殺傷、損壊等その他不測の事故をひきおこすおそれなどそれらの通行を著しく阻害する等し、または著しく阻害する等のおそれがある事態をひきおこし、公衆の生命、身体、自由または財産にとつて具体的に危険な行為をいうものと解すべきである。したがつて、本条例九条二項によつて処罰される者が指導したジグザグ行進とは、道路交通法の規制、処罰の対象になるものとは異なり、これによつて発生した交通阻害が原因して集団示威行進参加者と一般車両、一般通行人との間に緊迫した状況をひきおこすに足る行為であると解すべきであることは、ほぼ弁護人主張のとおりであるといえようが、さらにすすんで弁護人主張のように右両者が直接物理的に衝突した場合であるを要するとまでは解すべきでない。けだし、右のような衝突行為発生の場合には、他の刑罰法規をもつて処罰すべきものであるからである。これを本件についてみるに、前掲証拠によると、なるほど弁護人主張のように、被告人が誘導した判示第一梯団は判示交差点に入るに際し交通信号に従つたこと、同梯団が右交差点にいたのは約二分間であつてその間ジグザグ行進が行なわれたこと、しかし同行進による一般の交通停滞は約一分半ないし約二分間で回復したことが認められるが、右証拠をさらに、精査検討すると、同梯団が右交差点でジグザグ行進を行なつている際、右交差点を通過しようとする一般車両多数が同行進によつて右交差点の各手前で交通信号に従つて通行しようとしてもこれを阻害され、とくに右交差点内を南進通過しようとする一般車両二、三台が交通信号に従つたにせよ本件集団に近接しながらその切れ目をぬつて右交差点を通過したことが認められる。そうだとすると、一般車両の運転者は交通信号に従つて運転していても本件集団または他の一般車両と物理的に接触、衝突するやもしれない危惧の念を抱いていたことが優にうかがわれ、したがつて右ジグザグ行進によつて少なくとも人身事故にまで具体的に直結するおそれのある危険な事態がひきおこされたものであると認められる。右認定事実に本件当時が判示のように午後五時一六分ごろから約二分間にわたつていて既に交通ラッシュの時間帯に入つた直後であつたことをあわせ考えると、右認定の危険は、道路交通法が規制、処罰しようとする道路交通秩序を乱す場合とは質的に異なつたものであつて、一般車両の通行を著しく阻害する事態に該当するものというべく、したがつて本件ジグザグ行進は「公衆の身体、自由に対して直接に危険を及ぼ」した行為であることが認められる。そうだとすると、被告人は右ジグザグ行進に対する判示誘導行為によつて同行進について本条例九条二項にいう指導者として同規定違反の罪責を免れない。 (吉川寛吾)
〔参照判決〕京都地判昭四六・一〇・七本誌二七一号三〇八頁